大判例

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神戸地方裁判所 昭和42年(わ)1496号 判決

本店の所在地

神戸市生田区三宮町一丁目一七番地

法人の名称

株式会社 ミリオン観光

代表者の住居

神戸市生田区北野町一丁目一三七番地

代表者の氏名

平山庄太郎こと 黄孔煥

(旧法人の所在地、名称、代表者の氏名)

所在地

神戸市生田区三宮町一丁目一七番地

名称

有限会社 ミリオン会館

代表者の氏名

平山庄太郎こと 黄孔煥

本籍

韓国慶尚北道善山郡亀尾面飛山洞六六番地

住居

神戸市生田区北野町一丁目一三七番地

平山庄太郎こと黄孔煥

大正一〇年三月一〇日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官岩橋広明出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告株式会社ミリオン観光を罰金一、二〇〇万円、

被告人黄孔煥を罰金三〇〇万円、

に各処する。

被告人黄孔煥が右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人黄孔煥の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告株式会社ミリオン観光(以下被告会社という)は、神戸市生田区三宮町一丁目一七番地に本店を置き、パチンコ遊技場等を経営しているもの、被告人黄孔煥(以下被告人という)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を掌理しているものであるところ、被告会社は、昭和四三年四月二六日に有限会社ミリオン会館の組織を変更して設立されたものであり、右組織変更により、従前有限会社ミリオン会館が有していた一切の権利義務を承継したものであるが、右有限会社ミリオン会館は、同じく同市生田区三宮町一丁目一七番地に本店を置き、パチンコ遊技業を主目的として同所において、パチンコ店「ミリオン総本店」を、同区加納町五丁目一〇番地においてパチンコ店「第一ミリオン」を、同区三宮町一丁目一四番地においてパチンコ店 「第二ミリオン」を、同市葺合区御幸通八丁目二五番地においてパチンコ店「第三ミリオン」を経営していたもの、被告人は、右有限会社ミリオン会館の代表取締役としてその業務全般を掌理していたものであるが、右有限会社ミリオン会館の業務に関し法人税を免れようと企て

第一  昭和三八年一〇月一日から昭和三九年九月三〇日までの事業年度における右会社の実際所得額は七三、四五四、一九八円で、これに対する法人税額は二七、七六二、一七〇円であったのにかかわらず、売上げを除外し架空名義の簿外預金を設定する等の不正な方法により所得の一部を秘匿したうえ、同年一一月三〇日所轄神戸税務署において、同署署長に対し、所得金額が二、〇四一、〇八八円で税額が六七三、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって正当法人税額と申告法人税額との差額二七、〇八九、〇七〇円をほ脱し、

第二  昭和三九年一〇月一日から昭和四〇年九月三〇日までの事業年度における右会社の実際所得額は四六、四一二、七六七円で、これに対する法人税額は一六、九八八、九二〇円であったのにかかわらず、前同様の不正な方法により所得の一部を秘匿したうえ、同年一一月三〇日所轄神戸税務署において、同署署長に対し、欠損金額が一八、〇九一、六九二円で、還付税額三、七七〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって法人税一六、九九二、六九〇円をほ脱し、

たものである。

(証拠の標目)

冒頭の事実

一  登記官青木宗十郎、同池田孝利各作成の会社登記簿謄本

一  平山庄太郎作成の昭和四一年一一月一五日付証明書(定款に関するもの)

第一の事実

一  大蔵事務官作成の同四一年一一月一四日付証明書(同三九年一一月三〇日付確定申告に関するもの)

第二の事実

一  大蔵事務官作成の同四一年一一月一四日付証明書(同四〇年一一月三〇日付確定申告に関するもの)

一  押収にかかる日計綴四冊(昭和四三年押第四九三号の一の一ないし四)、日計表綴一冊(同号の二)、支配人日誌九冊(同号の五ないし九)

第一、第二の事実

一  遠山信義の検察官に対する供述調書

一  遠山信義作成の同四一年一二月一四日付(二通)、一二月一五日付確認書及び同四〇年一二月一四日付供述書

一  谷村嘉康作成の同四〇年一二月二七日付確認書

一  証人杉岡啓司の第七、八、一〇、一一回公判における供述部分

一  杉岡啓司作成の同四二年七月二五日付「売上指数表の解明について」と題する書面及び同四二年七月三日付銀行預金利息調書並びに預金残高調書

一  証人金聖壱の第一三、一四回公判における供述部分

一  証人平井三郎の第一五回公判における供述部分

一  証人増井貞幸の第一六回公判における供述部分

一  増井貞幸の検察官に対する供述調書(但し四項の記載部分を除く)

一  証人中林晃に対する証人尋問調書

一  証人大藤康男の第一七、二九、三〇、三一回公判における供述部分

一  大藤康男の同四一年一〇月一五日付調査書(預金系統図)

一  調査者国税査察官杉岡啓司と記載のある銀行調査書類三綴(検甲一二、一四、一五号、但しいずれも普通預金に関するものに限る。)

一  同四二年九月九日付大阪国税局の照会に対する神戸税務署長作成の回答書(黄孔煥、平山庄太郎、平山三郎及び平山麗子にかかる所得税の課税事績表)

一  押収にかかる事業計画書二枚(昭和四三年押第四九三号の三の一、二)、売上指数表二枚(同号の四の一、二)、営業日誌一二冊(同号の六の一ないし一二)、普通預金元帳四五枚(同号の七)、預金明細表三枚(同号の八)、日計伝票一綴(同号の九)、普通預金元帳一七枚(同号の一〇)、伝票綴一綴(同号の一一)、手控一冊(同号の一二)、普通預金元帳二九枚(同号の一三)、預金明細表三枚(同号の一四)、不動産明細表三枚(同号の一五)、定期預金元利金計算書八枚(同号の一六、一七)、通知預金元利金計算書一枚(同号の一八)、定期預金計算書一枚(同号の一九)、定期預金ご計算書四枚(同号の二〇、二一)、定期預金の申込書一綴(同号の二二)、定期預金元帳一綴(同号の二三)、証書、通帳発行簿一綴(同号の二四)、バイコ八通(同号の二五)

全事実

一  高松弘志の大蔵事務官に対する質問てん末書及び検察官(二通)に対する供述調書

一  平井三郎の検察官に対する供述調書六通(但し同四二年八月八日付のものについては、一、二項の記載部分を除く)

一  被告人黄孔煥の大蔵事務官に対する質問てん末書五通及び検察官に対する供述調書六通

一  被告人黄孔煥の当公判廷における供述及び第二一、二二、二三回公判における供述部分

一  裁判所調査官望月正作成の報告書

(弁護人の主張に対する判断)

一、弁護人は、大阪国税不服審判所長は昭和五〇年一月三〇日付裁決書をもって、被告会社の本件起訴にかかる両事業年度の法人税の各更正処分並びに重加算税の各賦課決定処分の全部を取消したのであるから、本件においては、旧法人税法四八条一項、一八条一項、法人税法一五九条一項、七四条一項二号の法人税ほ脱という構成要件を欠くに至ったものであり、いわゆる被害法益がもはや存在せず、処罰の対象となる違法行為は存しないと主張する。

しかしながら、裁決書謄本によれば、右の取消裁決は、原処分庁(神戸税務署長)が、被告会社の昭和三八年九月期以降同四〇年九月期までの、法人税の青色申告の承認の取消処分を取消したことにより、昭和三九年九月期分及び同四〇年九月期分の各更正処分は、青色申告に対する更正として取り扱うべきことになるところ、更正通知書には、法人税法一三〇条二項又は旧法人税法(昭和四〇年法律三四号による改正前のもの)三二条に規定する更正処分の理由を附記しなければならないのに、理由附記を欠いたために取消裁決をしたものであって、要するに、単なる徴税上の手続の欠陥をいうに過ぎず、実体上被告会社には税の事実があるかどうかとは別個の問題であるから、右取消裁決があるからといって、ほ税犯が成立しないということはできない。

二、次に弁護人は、検察官提出にかかる金聖壱作成のいわゆる売上指数表(昭和四三年押第四九三号の四の一、二)は、被告会社の店舗の大半が将来市街地改造による立退きを余儀なくされ、その際これに代る新らしい営業所を獲得するため銀行融資を受けなければならないので、好業績に見せかけ、銀行の信用を得るために手持金をたらい廻しし、銀行説明用としてこれをグラフに表示したものであって、右指数表は売上除外の実体を表わしたものではないと主張する。

証人金聖壱の供述(第一三、一四回公判)によれば、右指数表は、昭和三七、八年頃区画整理により被告会社の店舗(パチンコ店)の移転の話が持ちあがり、将来これに代る新らしい店舗を建てるための資金として銀行融資を受ける際、被告会社の業績を示す裏付資料として同証人が独自に作成したというのであり、有指数表に表示された売上高は、銀行の信用を得るために実際のそれよりも多額になっており、当日の実際の売上高から、社長である被告人のポケットマネーなどとして臨時に支出した金額を控除した額に、従来被告人が個人として日掛預金をしていた金額を参考にして、その預金高を加えた額が示されているというのである。

もし右供述のとおりであるとすれば、証人杉岡啓司の供述(第七ないし一一回公判)及び同人作成の「指数表の解明について」と題する書面によると、当日の売上除外とされている金額がそのまま架空の普通預金口座に入金されている分が数多く存することが認められるのであるから、実際の架空預金口座入金額と証人金聖壱のからくりをした金額と合致するのは不自然であるし、拘束性のある定期預金等の増加がないかぎり、単に手持ち現金を普通預金口座を通じて回転させただけで銀行の実績がつくわけがなく、むしろ実際の名義で預金してこそ銀行の信用が得られること等から考え、右金聖壱の供述はそのまま採用することができない。

更に、証人金聖壱の第一三回公判における供述によれば、同人は査察官の取調を受けた際、指数表は毎日の実際の売上を記入したものである旨供述していることが窺われ、証人大藤康夫の第一七回公判における供述によって認められるとおり、指数表は休業した日は休業と、台風の日は台風と事実に合う記載がされていること、本勘定の売上金額と指数表の伸びとを対比してみると同一であること、公表帳簿(日計表)の出玉率とが合うこと、証人金聖壱の第一三、一四回公判における供述及び証人金鐘寛の第一九回公判における供述によれば、総本店、第一ミリオン店及び第二ミリオン店の移転建築費はすべて神戸市より支出されていること、被告人が各店の移転建築に伴う費用について、各銀行から融資を受けたことは一度もなく、指数表を融資のために銀行に呈示したこともないことが認められる。

出玉率についても、証人杉岡啓司の第一一回公判における供述によれば、査察中の事案で七〇パーセント台のところもあることが認められ、指数表に表われた被告会社の各店の平均出玉率が約七〇パーセントであるからといって、弁護人主張のように、常識上全く考えられない数字であるとはいいきれない。

なお弁護人は、金聖壱作成の指数表は本件法人税法違反けん疑事件の臨検の際差押えられながら、同人はその後も同様な指数表を作成している事実から考えれば、本件指数表が実際の売上高を記載したものでないことは明らかであると主張するが、成程右のような事実は一面弁護人主張のような論拠となることもあるが、反面金聖壱らの主張(実際の売上を記載したものではないとの)を真実らしくする方法としても成り立ち得るわけであるから、弁護人主張のように一方的に断定することはできない。

以上述べた諸事情から考えると、本件指数表は実際の売上高を記載したものであると認めるのが相当であり、弁護人の主張は採用できない。

(訴因に関する判断)

昭和三九年九月期中の大平信用組合本店「津村孝夫」名義の積立預金一〇〇万円(検察官の昭和四八年九月一七日付冒頭陳述補充書添付の別紙一番号3の明細中のもの)、昭和四〇年九月期中の兵庫相互銀行本店「柳原武雄、市川義雄、渡辺長吉、初田一夫、津村昇、辻村春雄」名義の定期預金各五〇〇万合計三、〇〇〇万円(前記別紙一番号4の明細中のもの)、大平信用組合本店「津村孝夫」名義の定期預金三〇〇万円(前記別紙一番号5の明細中のもの)及び大平信用組合本店「磯部旭」名義の積立預金五〇万円(右番号5の明細中のもの)については、被告会社に帰属すべきものと認めるに足る証拠がない。

従って、右各金額を控除すると、昭和三九年九月期の期中財産増減表及び犯則所得金額、ほ脱税額は別紙(一)のとおりであり、昭和四〇年九月期の期中のそれは別紙(二)のとおりである。

(法令の適用)

被告会社に対し

判示第一の事実 法人税法附則一九条により旧法人税法(昭和二二年法律二八号)五一条一項、一八条一項、四八条一項

判示第二の事実 法人税法一六四条一項、一五九条一項、七四条一項二号

併合罪加重 刑法四五条前段、四八条二項、旧法人税法(前記に同じ)四八条二項、法人税法一五九条二項

被告人黄孔煥に対し

判示第一の事実 法人税法附則一九条により旧法人税法(前記に同じ)四八条一項、一八条一項(罰金刑選択)

判示第二の事実 法人税法一五九条一項、七四条一項二号(罰金刑選択)

併合罪加重 刑法四五条前段、四八条二項

労役場留置 同法一八条

訴訟費用 刑事訴訟法一八一条項本文

昭和五三年三月三日

(裁判官 荒石利雄)

別紙1 昭和39年9月期

〈省略〉

犯則所得金額等の計算 (A)-(B)

(イ)犯則所得金額 141,934,050-70,520,940=71,413,110

(ロ)所得金額 71,413,110+2,041,088=73,454,198

(犯則所得金額+申告所得金額)

(ハ)算出税額

中小法人軽減部分 3,000,000×33%=990,000

その他 70,454,198×38%=26,772,595    )計27,762,595

(ニ)法人税額 27,625,595-422=27,762,173(10円未満切捨)

(ホ)ほ脱税額 27,762,170-673,100=27,089,070

別紙2 昭和40年9月期

〈省略〉

犯則所得金額等の計算

(イ)犯則所得金額 (A)-(B) 112,187,042-47,682,583=64,504,459

(ロ)所得金額 64,504,459-18,091,692=46,412,767

(ハ)算出税額 3,000,000×31%=930,000

43,412,700×37%=16,062,699)計16,992,699

(ニ)法人税額 16,992,699-3,770=16,988,929(10円未満切捨)

(ホ)ほ脱税額 16,988,920+3,770=16,992,690

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